前回前々回と、器用貧乏の問題点などネガティブな面について考えてきました。
しかし実は、器用貧乏な子というのは本来優秀な子ですから、本気で受験勉強に向き合うことで大化けする可能性も大きいのです。
だからこそ私は器用貧乏な子に出会うと「もったいない」と強く感じましたし、なんとか大化けしてほしいと思ってあの手この手で受験指導してきました。
そこで今回は、器用貧乏な子を本当に優秀な子に引き上げるために、私が実際にやり、効果を感じたことを挙げてみたいと思います。
ご家庭で同じことができるかは、お子さんの性格や親子関係に依存する面が大きいとは思いますが、参考になればと思います。
器用貧乏な子は本気の出し方を知らない
器用貧乏な子というのは、「頭の使い方」と「学習量」が中途半端な子です。
本当に優秀な子ほどには深く考えることをせず、本当に優秀な子ほどには多くの学習量をこなしなしていません。
要は本気を出したことが無いのです。
(ちなみに本当に優秀な子は、大した努力をしなくても頭が良いのではなく、膨大な学習量をその高く深い処理能力で高速にこなします)
それゆえ、器用貧乏から脱するためには
・深い思考
・本当に必要な学習量
の2点を体感させることがポイントになります。
なお「モチベーション」は行動の後からついてくるもので、真っ先に手をつけるものではない、というのが自論です。
深い思考を体験させる:「解答の根拠」を徹底的に突っ込む
私の国語授業は、
① 読解演習
↓
② 指名された生徒が答案を発表
↓
③ 正解・不正解・部分点などを教師(私)がフィードバック
↓
④ 正解になるまで書き直し(その間に他の生徒を次々に指名していく)
という流れが基本で、設問ごとの生徒たちの正解状況に応じて、板書もしくは口頭での解説を挟むというスタイルでした。
特に②の指名による答案発表では
「なぜそう考えたの?」
と、解答の根拠を説明することを生徒たちに義務付けていました。
「本文の何行目にこう書いてあるから」など、生徒が論理的に考えて解答を導き出したかをチェックするるのが狙いです。
※国語の成績を上げる方法として紹介した復習ノートと目的は同じです。
この解答の根拠には、本当に優秀な子と器用貧乏な子との差が如実に表れます。
本当に優秀な子はどんな問題でも解答の根拠を明確に説明できます。それはどんな難易度の問題でも同じで、基本問題だからと適当に流すことはしません。
しかし器用貧乏な子は、解答の根拠が曖昧なことが多く、基本問題であれば正解できても、発展問題や本人の苦手なタイプの文章になると全く記述できなかったり選択問題の正答率にバラつきが目立つようになります。
要は勘やセンスで「なんとなく」解いているのです。
解答の根拠とは「なぜそう考えるのか」と自問自答すること。
まさに「思考の深さ」を表します。
したがって、解答の根拠をひたすら教師が突っ込んで生徒に問い続けることで、曖昧な思考を強制的に深めさせるのです。
私は国語担当だったので国語の授業での例を挙げましたが、根拠を考えるというのはどの教科でも大切なことです。
特に単なる暗記と思われがちな漢字や語句、社会でこそ、この深く考えているか否かで記憶の定着度や応用力が大きく変わってきます。
答えを出して終わり、ではなく、さらに一歩踏み込んで深く考える癖を身につけられるよう、大人は子どもの思考が深まるような言葉の掛け方を工夫してほしいと思います。
本当に必要な学習量を体感させる:「学習計画表」を徹底的に突っ込む
私は授業終了時に宿題と学習計画表を子ども自身に記入させていました。
子どもが学習計画を立てることには賛否両論あります。
反対意見として多いのは、「小学生の立てる計画は無茶苦茶になりがちなので非効率。計画は親が立てるべき」というもの。
たしかに計画そのものの質にこだわるならこれも一理あります。
ですが、私が計画表を活用していた一番の目的は、その「非効率さ」を子ども自身に自覚させることにあります。
学習計画表は以下のように扱っていました。
① 授業終了後に学習計画表の記入を指示
↓
② 翌週、提出と一緒に学習計画表を回収
↓
③ 宿題の実施状況・小テストの結果と併せて計画や学習状況の甘さを子どもに詰める
器用貧乏な子の立てる学習計画は皆一様に杜撰です。
漢字練習・読解演習などがコピペのように月曜から日曜まで単純に埋められ、そこには、学校の授業時間の違い、塾の他教科の授業の有無、他の習い事、計画通りに進まなかった場合のバッファ(予備日)など、具体的な実行イメージやリスク対策が欠けています。
そもそも計画通りに宿題ややり切ろうという気すら実はあまり感じられません。
なんとなくやっているだけなのです。
授業前日などにまとめてやろうとするので、当然ながら大量に出される塾の宿題は終わらないか、とりあえず模範解答を写しただけ、となりがちです。
これでは模試の成績が上がらないのはもちろんのこと、毎週の小テストですら碌な点数を取れません。
そこで、大人の突っ込みの出番です。
③で小テストの結果や宿題の実施状況を元に、学習計画表の甘さを生徒自身に振り返らせます。
ポイントは「なぜ得点が取れないのかを子ども自身に気づかせる」ということ。
大人からすれば問題点は明白でも、大人が「〇〇だからダメなんでしょ」と指摘してしまうと、せっかくの思考を深める機会を奪ってしまうことになります。
すぐに完璧に計画を立てられるようにするのが目的ではなく、深く考え、自身で問題点に気づけるようになることこそ重要。
これはいわゆるメタ認知能力を高めることであり、精神年齢を引き上げることにも繋がります。
こうしたやり取りを繰り返すと、
・「とりあえずをやっているだけ」では点数に結びつかない(思考の深さ)
・宿題をやりっぱなしではなく、何度も復習する必要がある(学習量)
といったことに子ども自身が徐々に気づいていきます。
すぐに大きな変化はなくとも、根気強く「これではまだ足りないんだよ」ということを押し付けずに伝え続けることが大切です。
まとめ:中学受験は「過程」にこそ価値がある
器用貧乏な子は「できる子」とみなされてきたので、プライドの高い子が多いです。
ですから無理に鼻をへし折ろうとすると、かえって反発を招きかねません。
とはいえ、ただ子どもに寄り添うのでは問題の根本解決にはなりません。
あくまで、宿題の実施状況(子どもの行動)とテスト成績など(結果)といった、客観的なデータ(エビデンス)に基づいて、自分の甘さに子ども自身が気づけるよう、大人は情報を整理し正確に把握しておくにとどめましょう。
つい大人は早く正論を伝えようとしてしまい、なかなか子ども自身が気づくまで待てないものです。最も身近な親子関係であればなおさら。
しかし器用貧乏な子にこそこ、一見遠回りに見えても自分で気づくことが重要なのです。
なぜなら、これまで遠回りをしてこなかったがゆえに、器用貧乏に陥ってしまったから。
元々は高い潜在能力を持つ器用貧乏な子どもたち。
中学受験は「本気で努力する経験」を得られる貴重な機会です。
なるべく早い時期に器用貧乏を脱することができれば、その後の人生の可能性も大きく広がるはずです。
ぜひ偏差値や入試結果だけを追い求めるのではなく、受験勉強を通してお子さんが成長する「過程」を、大切にしていただければと思います。
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埼玉入試まであと一週間ですね。忙しすぎて寝不足でもアドレナリン出まくっていたこの時期が懐かしいです。